「絶対フォント感」を身につけるためのトレーニングで今に生きていること

こんにちは。デザイナーのizumiです。

「絶対フォント感」と聞いて、30代以上の方であれば「聞いたことある!懐かしい!」というデザイン界隈の方も多いのではないでしょうか。

今回は「文字を見ただけで書体を言い当てられる能力」を指す絶対フォント感(詳細は後述)と、それを身につけるために20代の私がやっていたトレーニングを紹介します。

目次

  1. 「絶対フォント感」とは?
  2. 地道なトレーニングが生んだもの
  3. トレーニングを通して好きになった書体
  4. まとめ

「絶対フォント感」とは?

絶対フォント感は、月刊MdN(現在は休刊)で2015〜2017年にかけて3回組まれた特集『絶対フォント感を身につける』の中での造語です。
絶対音感のように見ただけで多様な書体を見分けられるようになろう!という企画で、書体の歴史からウロコなど細部の見分け方まで幅広く学べるよう網羅されており、(今では想像しにくいかもしれませんが)毎号完売になる大人気コンテンツでした。
ちょうどその頃、紙媒体の駆け出しデザイナーだった私はそれを身に付けるべく、絶対フォント感のトレーニングを昼休みや隙間時間にコツコツとやっていました。

地道なトレーニングが生んだもの

実際に当時やっていたトレーニングの名残が2枚だけ手元に残っていました。
その内容はと言うと...、その日買ったコンビニの水のラベルを剥がしてコピー用紙に貼り、MdNの付録のフォント見本帳と見比べて書体を書き込む、という実にシンプルかつ地道なものです(笑)。

実際に当時やっていたトレーニングの実物2点
見本帳に載っていない漢字はPCで打って出力して、見比べるために切り貼りしていた(画像左上)

ペットボトルのラベルの他にも、お菓子の袋や箱、ジュースのパックなどでも同じようにトレーニングをしていました。
ポイントとしては、できるだけ大量生産されているものや長く売られているものを選ぶようにしていました。
その理由は、例えば食品であれば、長く売られていると成分表示や生産工場が途中で変わることがあるからです。そうすると製造側では印刷の版をそこだけ差し替えるので、新しい版の部分だけ書体が違っていたり、同じ書体だけどスペースに収めるために長体や平体がかかっていたりと、思わぬ発見があるのです。
それを見つけた時は、まさにその文字を打ったデザイナーの頭の中を覗けたような気がして嬉しくなったのを覚えています。

もちろんデザイン性の高いポスターや本の表紙なども対象でしたが、保管場所の問題もあって気軽に手元に置いておけないので、日常的なトレーニングには不向きでした。
また書体を変形させたり加工しているものも多く見分けるには難易度が高かったのもあり、初めの段階では汎用的なデザインのプライベートブランド商品など、書体を見分けやすいものを選んでいました。

今でこそスマホのカメラをかざすだけで書体を教えてくれるアプリがありますが、振り返ると「ひたすら観察してアレか?コレか?と頭を捻りながら答えに辿り着いた」、という経験にこそ意味があったように思います。

このトレーニングを通して、基本的な書体の知識だけではなく、「文字を組んだ時の印象をデザイナーがどういう意図を持って操作しようとしているのか」を段々と汲み取れるようになっていきました。

意図とその手段を汲み取れるようになるということは、自分でもそれを真似できるようになるということです。(もちろんすぐにではありませんが...。)
例えば「知的だけれど骨太ではなくて繊細な印象にしたい」と思えば、それまでに見たサンプルで似たものを探し、組み方や処理方法を真似してみては「なんか違う!」と試行錯誤してイメージを近づけていく日々でした。
イメージが段々と近づいていくことが嬉しくて、時間を忘れて取り組んでいたので先輩からよく心配されました(笑)。

この時の試行錯誤が、領域は違えど今いるウェブの世界でも生かされていることは言うまでもありません。

トレーニングを通して好きになった書体

こうした日々のトレーニングの中で特に好きになった書体は、意外かもしれませんがモリサワの「黎ミン」です。

私は元々ベーシックな本文用書体(小塚や新ゴなど)が好きなのですが、その中でも黎ミンは縦組でも横組でも美しく組めること、本文から見出しまで使い勝手が非常に良いことなど、実務を通して既にその利点をおおいに感じていました。

黎ミンには横画を段階的に太くしたバリエーションがあるのをご存知の方も多いと思いますが、トレーニングを続ける中で、その設計の緻密さと「ここまで揃えてくるか!」というある種のマニアックさに胸がときめいてしまったのでした。

黎ミン グラデーションファミリー
https://www.morisawa.co.jp/culture/reimin/

「黎ミングラデーションファミリー」は、「黎ミン」をベースに、横画の太さを段階的に変化させたY0(Y表示なし)~Y40の5つのバリエーションと、8つのファミリーの計34書体で構成されています。従来の、おもに縦画が変化するウエイトという軸に、横画の太さという軸が加わり、幅広い表現や繊細な選択が可能になりました。

明朝体を大きく使う時にありがちな「横画がもう少しだけ太ければ印象を強められるのに...!」という時に、Y20がよく活躍してくれていました。
ウェブ領域では黎ミンを使う機会が(ほぼ)ないのが残念ですが、日常生活でよく目にする書体なのでぜひ皆さんも探してみてください。

まとめ

筋トレもコツコツと継続することで効果が出ますが、絶対フォント感のトレーニングも同じです。

書体を見分け言い当てるためのトレーニングがデザイナーの意図を汲み取る力を育て、またその手法を真似しながら試行錯誤することで自らのデザインの引き出しを増やすことに繋がりました。

その経験は紙媒体からウェブへ領域を変えても生かされています。

今はオンスクリーンで文字を見ることが増えましたが、これから絶対フォント感のトレーニングを始めるという方には、紙面で見ることをおすすめします。(書体の細部を見本と見比べたり、正体を確かめるために切り貼りしたりできるので。)あと今はフォントかるたというゲームで遊びながら身に付ける方法もあります。

そういえばウェブフォントではまだこのトレーニングをしたことがないので、私もこれを機にやってみようと思います。

今回は少し懐かしい話題からのテーマになりましたが、いま雑誌を見返しても「良い特集だったなぁ...」としみじみ思うくらいなので、「この記事で知った!」という方にも参考になれば幸いです。(特集3回分を一冊にまとめたムック本もあるので興味のある方は古本で手に入れてみてください。)

P.S.
個人的なフォント関連のホットトピックは、10月15日にMorisawa Fontsにゴナや石井書体などの写研フォントが加わることです。楽しみ!

izumi

アートディレクター/デザイナー

2022年入社。
桑沢デザイン研究所卒業。メーカーでの企画開発、制作事務所でのグラフィックデザイン、地域おこし協力隊でのFab施設の運営やフリーランスなどを経て、マイロプスへ入社。
休日はだいたい読書か映画鑑賞か散歩をしています。

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